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July 06, 2009

プレトニョフとロシア・ナショナル管弦楽団来日(ロシア音楽編)

土曜日は、ずっと楽しみにしていたプレトニョフとロシア・ナショナル管弦楽団(RNO)のコンサートを聴きに行った。サントリーホールで、席は舞台後ろのご対面席。1列目なので、オーケストラの団員と一緒になった気分で指揮を見ることができる(各パートに指示する時、目が合うような気がして余計な緊張をしてしまうことも・・)。
曲は、リムスキー・コルサコフの歌劇「雪娘」組曲、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲と交響曲6番「悲愴」というロシアもの3曲。最近はベートーヴェンやロシア以外の作曲家の音楽にも力を入れている彼だけど、チャイコフスキーとなると、やっぱり期待が高まってしまう。先週はボリショイ・オペラの「スペードの女王」でドラマチックで歯切れの良い、素晴らしい演奏を聴かせてくれた後なので、なおさらだ。

ヴァイオリン協奏曲の独奏は川久保賜紀。物語るような、抑えた精神性のある演奏。プレトニョフが指揮するオーケストラは、独奏にぴったりと寄り添い、時に歌い上げ、競い合う。まさに協奏曲という言葉通りの、オーケストラとソロが完全に溶け合った、繊細そのものの演奏に聞き惚れた。

最後の6番も素晴らしかった。プレトニョフの演奏はいつもそうなのだけど、今回も、CDやコンサートで聴いた彼のどの演奏とも違っていた。音楽がその場の雰囲気や勢いに流されたり、なんとなく、という音は一つもない。指揮をする表情は真剣そのものだけど、固い、ということではなく、指の先から自然と音楽が流れる感じ。普通の演奏とはタイミングや間の取り方が違うところがあるのだが、音楽としては自然で説得力がある。最後は胸を締め付けるような絶望(отчаяниеというロシア語が頭に浮かんできた)、それはこれまで聴いたことがないような演奏だった。どうしてそんな気持ちにさせられるのか、とても不思議だ。20年前に、ピアノ演奏で同じような体験をして、突然ロシア語を勉強したくなったことを思い出す。

それにしても、彼がピアノで表現したいことをオーケストラでやるのは大変だろう。ピアノの音では飽き足らなくて、オーケストラの音を使って自分の中のアイディアを形にしようとしているのだろうが、オーケストラは大集団だから、必ずしも期待に応えられるとは限らないだろう。それでも彼は無難な道は歩まない。それは表現したいものがあるから。いつもうまくいくとは限らないだろうけど、そんなことよりも大切なことがあるのだろう。

前に楽屋におじゃました時、彼は日本語で「オンガクハスキデスカ?」と話しかけてきた。その時は、なんてシンプルなことを聞くのだろうと思ったが、時がたつにつれて、深い言葉だと思うようになった。プレトニョフの演奏は、単に構成やアイディアが素晴らしいだけでなく、チャイコフスキーや音楽が好きで、心から尊敬していることが伝わってくる。どんなに新奇で普通とは違う演奏でも、その底に音楽が好き、というベースがあることわかる。だから彼の演奏は目が離せない。いつも新しくて、いつも生きている。その場を共有できることが貴重で、とてもありがたく思う。

コンサートの後は、母との予定で新宿の岸田劉生展に急いだが、気持ちはすっかりロシアになっていて、夕食は駅ビルのマトリョーシカ(ロシア料理)にした。(ビーツではないけど)トマト味のボルシチと、チーズたっぷりのつぼ焼き、木苺のタルトがおいしかった。

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